中湧別は、以前ならば遠軽から紋別、興部を経て名寄へ向かう名寄本線と、網走からの湧網線が合する駅だったはずのところ。真新しい巨大な公共施設の片隅がバスの停留所になっていた。敷地内には鉄道記念館も見えたが(国鉄中湧別駅の跡地だということだ)、ほどなく次に乗るバスの時間になってしまうので、行かない。
先ほどのバスでずっと網走から乗ってきていたのは、アジア系の若い女性だった。最初、きっと南方中国人に違いない、と思って、彼女が雪景色を写真に撮っていたので「シャッター押しましょうか?中国人ma?」などと少し話したのだが、日本語は比較的達者で、しかもタイ人のかただった。JR北海道のパスを持っていて、今日は紋別まで行って観光してから、北見に戻って札幌行きの夜行列車に乗るとのこと。──ほどなく、遠軽発紋別(もんべつ)行きの北紋バスがやって来たので、乗り込む。このあたりは比較的人口の多いところなのだろう、車内には乗客が十数人乗っていた。まあもちろん、座れないほどではなかったが。
中湧別の市街を出ると、おそらく牧草地なのだろう、雪原の中を行くようになった。空はだんだん翳ってきて、暗い色のオホーツク海がのぞめる。左手にオホーツク紋別空港が見え、紋別の市街地に近づく前に、「オホーツクタワー入口」でバスを降りてみた。小雪が頬を打つ。先ほどのタイ人の女性もここで降りた。
* * *
紋別市は、網走から北の海沿いでは最大の都市で、流氷観光船の“ガリンコ号”で有名なのだが、観光客ですごいらしいのでこれに乗るつもりはなかった。しかし、ガリンコ号乗り場の近くにオホーツクタワーというのがあって、港の防波堤の突端に、海に突き出した塔が立っていて流氷の下の海中を見られるらしい。──バスのスケジュールの関係で、観光に費やせる時間はほとんどないので、少し迷ったのだが、ただバスを乗り継いでいくだけというのも味気ないので、降りてみることにしたのだった。
タイ人の女性と話しながら、雪原を回りこむ道をしばらく歩いていくと、もんべつ流氷まつりの会場があって、なにやら偉い人がマイクでしゃべっている。それなりに観光客も集まっているようだ。タイ人の女性は流氷まつりを見に行き、ぼくは別れてガリンコ号乗り場のほうへ向かった。
すると、これまでたどってきた道々の寂れかたがウソのように、「ガリンコステーション」の建物は観光客でごった返していた。岸壁に停泊している赤いガリンコ号は、たいして大きい船ではないのだが、乗客が列を成して次々と乗り込んでいく。港内の水面には、板状の氷が浮いており、見るからに寒々しい。
「オホーツクタワー」は、本当に防波堤の先端にあるので、見はるかすとうんざりするほどの距離だった。防波堤が回廊のようになっていて、てくてくと歩いていったが、塔についたところでそろそろ帰らなければならない時刻だった。残念。──このあわただしさはひとえに、後の行程のバスの接続の悪さのせいであって、いかんともしがたい。それに、そもそも、今いるこのオホーツクタワーから、次に乗るバスが出る紋別ターミナルまで、どのくらい距離があるのかも把握していなかった。タクシーを使おうとは思っていたものの、そのへん、あとさきを深く考えずにバスを降りてしまっていたのだ。
すると、ガリンコ号乗り場の前に、先ほどの路線バスと同じ、北紋バスが一台停まっていて、観光客たちが乗り込んでいる。ここと紋別ターミナルとの間を往復しているシャトル便の「ガリヤ号」だそうだ。これは好都合だ。バスは満席になって、12時30分に発車した。タクシー代が浮いて、よかった(^^
豪雪に埋もれた紋別の市街に入って、これも真新しいバスターミナルに着いた。ここも、国鉄名寄本線の紋別駅の跡地らしい。──建物は立派で、JASの代理店と北紋バスの詰め所、紋別市の機関などが入居しているが、“駅前”は殺風景である。市街地の道路からは少し入ったところにあるので、バスの時間までちょっと買い物でもしに…といったようなことがやりにくい。
* * *
15分の待ち時間で(実際にはバスはさらに5分程度遅れて来たが)、雄武(おうむ)行きのバスに乗り込んだ。紋別の市内でおばさんやおばあさんがわずかに乗り降りしてから、市街を出外れると、車内にはぼくを含めて4人ほどの乗客が動かなくなった。どの人も自分と同じような旅行者に見える…。ときおり吹雪が吹き付ける中を、バスは坦々と進んで行く。
途中の興部(おこっぺ)は、国鉄時代には名寄本線と興浜南線が分岐していたところ。待合所から5〜6人の乗客が乗ってきた。乗ってきたおばさんが、携帯電話で「いま興部の駅なんだけど、、、」等と話していた。“駅”という言葉、町から鉄道線路がなくなっても、生きているのだろうか。
オホーツク海に突き出した日の出岬では、バスは国道238号を大きく外れて、岬の上にある“ホテル日の出岬”にまで上がった。なんと、一人の乗客がここで降りていった。岬の丘の上にあるホテルで、オホーツク海の朝日が美しいところらしいが、この季節に観光客が訪れるとも思えず、そもそも営業しているのかな?
|