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じゃわじゃわ旅行記
晴れわたる屋久島の空 #01

白谷雲水峡の森

屋久島上陸縄文杉と白谷雲水峡屋久島一周補遺


 別に人生観を変えてみようとか思ったわけでもないのだが、島に行きたい&森に行きたい、、、「屋久島に行きたい」と思い始めたのは1年くらい前のことだったか。山と渓谷社の屋久島ブックを眺めたりしていた。

 しかし、東京からだと、とても遠いところである。それに、雨が非常に多い土地だから、短い旅程、行ってみたはいいがずっと雨に降り込められてました、ということになりかねないので、二の足を踏んでいた。

 何も予定が立たないままに迎えた、今年の夏休み。ちょうどその少し前に、九州を強力な台風が駆け抜けていったところだった。しばらくは天気がいいようだ。──んんっ?これはタイミングか? ということで、メトの演奏会を終えた翌日、インターネットで鹿児島行きの全日空機を予約して、街に出て登山靴を買い求めた。


屋久島上陸 Sep. 19, 2006
HND(ANA263)→KOJ(南国交通バス)→天文館(徒歩)→鹿児島港北埠頭(鹿児島商船『トッピー1』)→安房港


 2006年9月19日(火曜日)、横浜駅のBeck'sコーヒーショップでアイスカフェラッテを飲む朝。ここまでは日常の感じだが、今日はひと味違う。──東口のYCATからバスで羽田空港へ。

 羽田ではカード会社のラウンジで偉そうに休憩してから、11時30分の全日空263便で鹿児島へ出発。比較的空いていて、離陸時には川崎扇島→富津岬と第二海堡→三浦海岸→江ノ島→伊豆半島と、窓からくっきりと見えて、わくわく気分である。

 それにしても、飛行機に乗るといつも、離陸してしばらくするとどっと疲れに襲われるのだが、なぜだろう。そしておなかが空いてくる。──食べ物は持ち込まなかったので、飲み物サービスでスープをもらい、さらに軽食を買っちゃおうかと悩むうちに、容赦なく着陸態勢に入り、13時15分、茶畑に囲まれた鹿児島空港に着陸した。明るく暑く、南国ムード。台風も去ったばかりだ。鹿児島空港って2回目だな。以前は鹿児島にはスカイマーク・エアラインズが就航していたが、採算が取れなかったのだろう、今はない。

* * *

 到着ロビーに出て、間髪入れずに13時20分発の市内行きバスに乗車。鹿児島中央駅(むかしの“西鹿児島駅”)の駅前は、以前来たときに比べるとすっかり整備されており、とくに駅ビルの上にそびえ立つ巨大観覧車に唖然とした(南国交通のバスターミナルは昔のままだったが)。そういえば九州新幹線が開通してから、九州に来るのは初めてだな。帰りは九州新幹線に乗ろうかしら。

 14時20分頃、天文館で空港バスを降りて、食事も二の次で繁華街を急ぎ足に歩く。──鹿児島から屋久島に渡るには、飛行機か船である。飛行機で行くなら鹿児島空港で乗り継ぎだったのだが、飛行機は高いから船で行く。

 船の便は、ジェットフォイルまたはフェリーが数社あるが、もっともオーソドックスな、ジェットフォイル『トッピー』(鹿児島商船)で行こうと思っている。乗り場は、錦江湾に臨む鹿児島港の、北埠頭というところ。予約は取っていないが、満席という心配は正直なところあまりしていなかった。平日だから大丈夫だろうと思っていたし、ダメなら鹿児島に一泊すりゃいいや、というくらいの恵まれた旅程である。──『トッピー』の最終便は15時30分の出航だ。

鹿児島港北埠頭。奄美・喜界・沖縄航路が発着する 真夏の陽射しの港湾地区を歩き回り、ちょっと道に迷いながら、汗だらだらで乗り場に着いて、無事に搭乗券を入手した。まだ決めてなかったけど帰りもこれに乗ることになるだろうな、と思って、往復チケットを買った。復路は7日間有効のオープンチケットとなる。運賃は公表されてる往復運賃よりも安く、11,600円だった。屋久島往復のキャンペーン割引をやっているそうで、ほぼ飛行機の片道運賃相当である。

 乗り場の待合ロビーで、ラーメンを食べたり飲み物を買ったりしたが、それより何より、売店で『るるぶ 屋久島・奄美』を買った。屋久島ではやはり縄文杉を見に行くつもりなのだが、ここまで来ておいて地図を持っていなかったというのはちょっとどうかと思う(『屋久島ブック』には取り外せる地図はついてない)。

 ──そして、今晩からの宿泊先を決めないと。15時30分発の『トッピー』は、屋久島では、ほとんどの船が着く宮之浦ではなく、安房あんぼうに入港するのだが、安房というのが屋久島のどのあたりなのかも、実はおぼろげにしかわかっていなかった。改めて『屋久島ブック』を見直したりして、安房港からすぐの民宿にあたりをつけて、「今日から泊まれますか」と電話してみたら、OKとのこと。なんだか今回の旅行は、行き当たりばったりのわりにはすいすいと話が進むなあ。

鹿児島商船『トッピー1』 ジェットフォイルに搭乗する。座席指定の“搭乗券”で、指定された席に座り、シートベルトを締める。船という感じはせず、むしろ飛行機みたいだ。定員も260人とかなりの規模。ジェットフォイルとは、水中翼で船体を浮き上がらせて、80km/hもの高速で“翼走”する高速艇だが、今年の春に流木(?)と衝突して多数の重軽傷者を出している。

 開聞岳を右に見て、左に佐多岬を望み、錦江湾を出て外海に出ても、波は穏やかなようで船は大して揺れなかった。船は種子島の西之表に寄港して、屋久島に向かう。──ぼーっと平べったい種子島に比べて、徐々に近づいてきた屋久島は、ちょうど日が翳ってきたこともあるだろうが、暗くけわしい島だった。

屋久島が見えてきた 18時09分、屋久島の安房港に入港。ホテルやレンタカーの人が、乗客の名前を書いたカードを掲げて並んでいた。背後には、集落に覆いかぶさるような崖。なんだかすごいところに着いてしまったような気がするぞ。

 民宿に荷物を置く。明日は縄文杉まで山登りである。改めて地図を広げてみたり、登山口行きのバスの時刻を確認したりした。

 縄文杉までは、荒川登山口というところまでバスで行き、そこから登山道を片道11kmも歩くことになる。朝早く出て、縄文杉往復だけで丸一日(初心者で10時間)かかると言われている。ぼくは登山どころか普段からまったく運動しない(ものの、突発的に一日に70kmも自転車を漕いだりするが^^;)ので、ちょっと警戒している。最低限、食料と飲料水は確保していかなければならない。

 登山客相手に早朝に用意してくれる弁当屋さんがある、と民宿のおっさんに紹介されて、電話をかけて予約しておく。さらに、ふらっと入ったスーパーで、チョコレート、大量の調理パン、2リットルボトルのアクエリアスなどなどを買い込み、ずっしりとビニール袋に提げて宿に戻った。──ちょっと際限がわからなくなっている感もある。


縄文杉と白谷雲水峡 Sep. 20, 2006
安房(屋久島交通バス)→荒川登山口(徒歩)→縄文杉(徒歩)→白谷雲水峡(屋久島交通バス)→上屋久町役場/宮浦小学校前(屋久島交通バス)→合庁前


安房集落、夜明け前 実は、たまたま船が着いたために安房を宿泊地に選んだが、宮之浦よりも安房のほうが縄文杉を目指すには近いのである。それはよいのだが、朝5時起床で民宿を飛び出し、県道沿いの弁当屋さんでおにぎり弁当(二食分、1,000円)を受け取ってから、安房バス停5時37分の屋久島交通バスで、縄文杉登山の入口、“荒川登山口”へ。

 一日一本のこのバスは、完全に登山客に合わせたダイヤのようで、朝のこの便は島の北側の宮之浦から東側の安房を回って登山口へ、もう一便は南のいわさきホテルとかのほうから、同じ時間に登山口に到着するバスがあるようだ。

 バスは満員で、安房から乗った6〜7人のうちぼくを含めた何人かは補助席になった。途中からもまた乗車があり、補助席6名に。山道をぐんぐん巻いてバスは登っていく。山の険しさだけを見ていると、とても島とは思えないが、登った拍子に海が見えたりするのが不思議な感じである。

 運転士のアナウンス、帰りのバスは17時00分の一本だけとのこと。それは知っているが、今日はもう少ししたら修学旅行の高校生が大挙押し掛けるとも言っていた。これは非常に有益な情報であって、高校生が来る前に縄文杉にたどり着かないと登山道も縄文杉も収拾がつかなくなるだろうことが容易に想像できる。

荒川登山口 6時25分、荒川登山口に到着。登山客が群れを成している。すごいやこりゃ。…山に入る前に煙草を吸おうかなと思ったが、煙草はあるもののライターが見つからない。今朝はすでに安房でバスを待っている間に吸ってるので、バスの中でライターを落としたようなのだが、まあ仕方ない。今日は山を降りるまで禁煙しよう。。。などと思いつつ、結局は途中で他の登山者に火を借りて吸ったりしてたのだが。──登山届を提出して、いざ出発。

トロッコ軌道 廃トロッコ
 登山道と言っても、トロッコ軌道を歩く道が、延々と続く。最初のうちは物珍しく写真など撮るが、これが8kmも続くのであるから、さっさと進むに限る。

太忠橋 安房川の上流部にあたります
太忠橋。欄干のない軌道橋に最初は少しひるむが、こういうのが何箇所か出てくる。ただし、足元には十分注意。

小中学校跡 小杉谷休憩所
7時04分着、小杉谷集落跡。昭和45年に廃村になったところと言う。格好の休憩地点になっている。ぼくもここで朝食のおにぎりの残りを食べきった。

トロッコ軌道 トロッコ軌道
陽が差してきた。

楠川分れ標柱 7時32分着、楠川分れ。ここはただの登山道の分岐点なのだが、ちょっと今回、地図上で注目していたポイントであった。

 実は、今日は縄文杉の帰りにここから白谷雲水峡のほうに抜けようと思っている。──白谷雲水峡とは、宮之浦川の支流の白谷川の上流にある面積423.73ヘクタールの自然休養林で、宮之浦の集落から約12km登ったところに入口がある。普通ならば宮之浦側を基点としたトレッキングコースなのだが、地図上で見ると縄文杉の登山道上、ここ「楠川分れ」からちょっと入ると白谷雲水峡の奥に出られるように見えるんだよな。。。なので、もう一日使って宮之浦から入りなおすのも面倒くさいので、縄文杉の帰りに行けそうならそっちに下りちゃえばいいじゃん、と思ったのだ。

 ただし、白谷雲水峡から宮之浦への帰りのバスは、16時10分が最終だということで、それに間に合うには少なくとも縄文杉を11時には出なければならない、と朝の路線バスの運転士がアナウンスしていた(それにしてもこんな細かいことまでアナウンスする運転士だった)。それに間に合うようなら行ってみたいが、どうしようかな、と思案していたのだった。ひとまず縄文杉までどのくらいで着けるか、自分の体力のペースがまだつかめないんだよな。

鹿の親子が 空洞のある杉

何だこの毒々しいキノコは 翁岳の頂上がくっきりと見えた

* * *

大株歩道入口 大株歩道入口
 8時26分着、大株歩道入口。県が設置した循環式トイレがある。荒川登山口から8kmあまりの地点。ここでトロッコ軌道は終わり、本格的に山道になる。10分程度休憩してから出発。

ウィルソン株 大王杉。個人的には縄文杉よりも迫力があるような気がする

夫婦杉 

* * *

9時50分、縄文杉に到着。思ったよりもだいぶ早かった。

縄文杉 縄文杉 

 縄文杉の前には木製のデッキが設けられており、根元までは近づけない。さらに、何か人工的に植栽されている模様。登山者が増えて根元が荒らされるようになったので、このように人の手を入れたようだ。もしかしたら、森の中でここだけ空間があいているのも、おそらくは人が増えたせいなのではないか?

 表側の樹皮が白っぽくなってしまっていて、なんとなく痛々しい。とはいえたしかに、たいした存在感のある木である。根元には、鹿が一頭座っていた。

 荒川登山口から同じくらいの時間に出発した人たちよりは、かなり早く到着したと思われる。縄文杉の前のデッキには数人が思い思いに杉と対面していた。しかし、得々と説明し始めるガイドがやっぱり一人いて、げんなりしたけれども。──エコツアーみたいなのが流行っているようだが、はっきり言って、ふつうの人が縄文杉まで行くためだけなら、ガイドをつけたりツアーに参加する必要はあまりないのではないかと思う(もちろん、ガイドから植生や地勢などの知識を得ることはできるだろうが)。経路の半分以上が歩きやすい平坦なトロッコ道であり、迷うことはないし、さらに言えば、あまり面白いコースではないような気がする。

 縄文杉の近くの小屋で食事を取りながら、同じくらいに到着した人たちと少し話す。ほとんどが若い学生さんで、関西方面の人が多い模様。「白谷雲水峡のほうに下りようと思うんだけど」と口火を切ってみると、「バスに間に合うには相当早く歩かないとダメなんじゃないですかね」といった感じで、あまりたどる人のいないルートらしい。ふうむ。

* * *

 10時40分、縄文杉から下山を開始。──帰りは、例の高校生の集団が順次やってくるようになり、狭い登山道が大渋滞になった。それだけならまだしも、高校生のパーティーのガイドが、高校生に囲まれて身動き取れなくなっているぼくに対して、道をあけるように要求してちょっとひどい言葉を浴びせたり、ぼくの荷物を後ろからつかんだりされたので、大株歩道入口まで下りてくるまでにかなり気分が悪くなってしまった。

 11時50分発、大株歩道入口。ここからは平坦なトロッコ軌道だし、標高も下りになるので、歩きやすい。この区間で時間を稼いでおくため、ちょっとペースを上げた。


転轍機で遊ぶ(マウスオンでポイント切換)

 12時37分、楠川分れに再び到着。快調なペースである。

辻峠へ ここから辻峠を越えて白谷雲水峡に抜ける道は、トロッコ軌道に比べると泣きたくなるような険しいけもの道であった。ところどころに木の枝に巻きつけてあるピンクのテープが登山道の目印である。下を向いて足元を確かめ、一歩踏み出しては上を見てピンクのテープを探し、、、その繰り返しで、奥山を踏み越えてゆく。他に登山者はいない。

何だこの毒々しいキノコは、その2 ピンクのテープが頼みの綱

 昼なお暗い山中であるが、それだけではなく小雨が降り出した。岩屋で雨宿りしている人たちがいた。人だ!と思って(苦笑)、話しかけてみるとやはり、白谷雲水峡のほうから入ってきた人たちで、ここから白谷山荘まではまだ30分以上かかるとのこと。

辻峠
 13時14分、辻峠に到着。ここから太鼓岩という眺望のいい岩場への道が分かれるが、ちょっとそこまでは寄らないことにした。荷物を降ろして水分を補給し、雨合羽を取り出して羽織った。

暗すぎる 木道のようなものが朽ち果てて残骸になっている
 辻峠からの下りもかなりきつい。というか登りよりも下りのほうが苦しいのかも知れない。辻峠の標柱には白谷山荘まで20分と書いてあったが、20分なんてとっくに経ってるぞ。道を間違えていないだろうな。しかし時折、向かいから登ってくる人と出会うので、尋ねてみると、やはりまだ20分くらいかかる、と言われたりする。むう…。砂地かと思って足を踏み出したら泥濘に思い切り突っ込んでしまったりもした。

苔がふかふか この瞬間、体長数メートルの大王ヤンマが飛んできても違和感ない空間である

なんでこういう看板を立てるかねえ 「もののけ姫の森」という情けない看板が立っているあたりに、ハイキング客とガイドのオヤジが休んでいた。立派な角を持った鹿が斜面にいて、女の子が歓声を上げていた。オヤジから火を借りて一服。

 白谷山荘から白谷雲水峡の出口(宮之浦から入ってくれば“入口”だが)までは、遠回りの「原生林歩道」と、近道の「楠川歩道」がある。峠越えをしてきた疲弊した状態を考えれば、近道を選ぶのが賢いとは思うが、ちょっとハイになっていたのかも知れない。遠回りのほうを選んでしまった。

鹿っていっぱいいるんだな 白谷雲水峡

くぐり杉 白谷雲水峡

白谷雲水峡 杉の倒木に巻きつくエイリアンですか

 アップダウンがきつく、一心に歩いていると、思考がだんだん混濁してくる。子供の頃のことを思い出したりして、あっ、ちょっとやばいかも、と我に返ったりもした。

白谷雲水峡、だいぶ下流です 白谷雲水峡、だいぶ下流です

白谷雲水峡入口。私は裏からここに出てきたので入山料を払いませんでしたが、よろしかったでしょうか? 15時30分、白谷雲水峡の入口まで下りた。──見やがれ、16時10分のバスまでまだ余裕があるぜ! しかし、上半身に着ている長袖Tシャツは汗でびしょびしょであった。管理事務所に声をかけて脇の水道を借り、頭から水をかぶって着替えた。乾いたタオルと着替えを死守してきて正解だった。

 屋久島交通バスの宮之浦港行きに乗って下山。車内ではあっという間に眠ってしまい、ふと気付くと、夏の夕方の陽射しに眠るような河口が広がっていた。 ──宮之浦からさらにバスで安房に戻る。

宮之浦川の河口付近。けわしい山を越えてきた身からすると拍子抜けするようなところだった

* * *

散歩亭さん 安房での夜は、レストラン『散歩亭』さんで。安房川の橋を渡って、川沿いの少し奥まったところに、いい感じの灯りがともっている。

 屋久島に滞在した3日間、食事はここで取っていたのだが、この日は「縄文杉に行って、帰りは白谷のほうに下りてきました」と話したところ、お店や地元のかたから、「それは無謀だ」「ビギナーズラックじゃないの?」と、否非両論(苦笑)であった。やはり、普段からノー運動の軟弱人間がやるにはちょっときついコースだったらしい。

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